INTERVIEW
嶺井第一病院 院長インタビュー vol.1
脳卒中
ーその症状と治療、予防についてー
脳卒中の症状と治療、予防について
[目次]
沖縄県浦添市大平にある「嶺井第一病院」は、1976年(昭和51年) に初代・嶺井進院長のもと脳神経外科の単科病院として産声をあげ、40年近く脳疾患の急性期治療(※1)をメインに先端医療を提供してまいりました。超高齢化社会に向かう現代においては医療のあり方も多様化・複雑化しているといえます。そこで当院では長年にわたる急性期治療の歴史と脳疾患治療における時代のニーズを踏まえ、現在は回復期リハビリに力を入れているほか、早期発見や早期治療、予防医療にも積極的に取り組んでいます。2017年(平成29年)に当院の院長に就任した石川智司先生に、嶺井第一病院の特徴、脳卒中の種類や症状・治療法について、さらには脳卒中を引き起こす要因や脳ドックへの取り組みについても聞きました。
※1「急性期治療」:急患や重篤な症状に対する治療
石川智司院長の経歴と嶺井第一病院の強み
Q. 嶺井第一病院の診療科目について
当院はおもに脳神経系の疾患に特化した病院です。脳神経外科・神経内科(脳神経内科)・整形外科(主に脊椎外科)・内科の常勤医がいるほか、外来には心臓外科と泌尿器科の先生もいらっしゃいます。現在は脳神経系疾患の治療も多様化しているので、私が赴任してからは急性期病院と連携して回復期のリハビリや診断などをメインに行っています。
Q. 石川先生の経歴を聞かせてください
1994年(平成6年)に琉球大学医学部を卒業したのち、同学部付属病院の脳外科に入りました。その後、大浜第一病院、沖縄県立八重山病院、南部病院、浦添総合病院、沖縄赤十字病院、那覇市立病院などで急性期の脳疾患治療に携わってきました。2017年(平成29年)1月からは、嶺井第一病院の院長を務めさせていただいています。
Q. 現在は回復期リハビリや予後診療・予防医療に力を入れていますが、その理由は?
さまざまな病院で急性期の治療に携わるなかで、回復期病院の先生方と連携して“顔が見える治療”ができないかという思いがありました。今は若い優秀な先生方もたくさん活躍されている時代ですので、急性期の現場を知っている私が回復期医療に取り組めば、相互にうまくフィードバックができるはずだと思ったわけです。
患者様の治療までのゴールを急性期病院と回復期病院で共有できるのが嶺井第一病院の特徴です。急性期病院と回復期病院の連携を密にするためのリハビリカンファレンスというのがあるのですが、当院では医師をはじめ、看護師さんやリハビリスタッフも一緒に話し合いに参加しています。
Q. “顔が見える連携”にはどのような利点がありますか?
脳神経系疾患の治療においては病院同士がそれぞれの役割を担って相互に連携していくというが現在の主流です。当院は、たとえば外来でいらっしゃった患者様に緊急で手術が必要な場合、迅速に急性期の病院を紹介しています。急性期の治療は1分1秒を争いますし、近年は「血栓溶解療法」や「血管内治療」といった専門性の高い医療が発達しています。病院にもそれぞれの強みや特色がありますので、血管内治療であればあの病院が強いなとか、悪性の脳腫瘍であればあの先生が抗がん剤に詳しいなとか、これまでの急性期病院での経験や先生方との繋がりをいかし、基本的に患者様にとって何がベストかを考えて診療にあたるようにしています。
Q. 嶺井第一病院の回復期リハビリ病棟における疾患の内訳は?
当院には急性期の最前線で活躍してきた先生方が3人いますので、約80床あるなかの50〜60床が脳卒中の患者様、残り20床近くが整形外科の患者様です。第一線で活躍してきた医師が回復期治療にあたるもう一つの利点として、MRIやCTの画像を見たら「この方はこれくらいまで改善するんじゃないか」、「どれくらいの後遺症が残りそうだ」など、限られたリハビリ期間のなかで予後予測ができるのが強みだと思っています。
脳卒中の種類とおもな症状(脳梗塞・脳出血・くも膜下出血)
Q. 脳卒中というのはどのような病気ですか?
脳卒中は大きく3種類に分かれます。
脳卒中 | 脳梗塞 | 血管が詰まる・狭くなるなどで血流が悪くなる |
脳出血 | 脳の中の血管が破損して出血する | |
くも膜下出血 | 脳の表面の動脈瘤が破裂して脳脊髄を覆うくも膜下に出血する |
割合としては脳梗塞が一番多いのですが、沖縄の特徴として30代・40代の若年性の脳出血が多いというのがあります。また、くも膜下出血については、兄妹で多いとか、親子で多いなど遺伝的な関連もいわれてはいます。いずれにしろ、脳卒中の治療は時間との戦いだということは、ぜひ多くのみなさまに知っておいていただきたい。数時間〜1日様子をみるなどして細胞が死んでしまうと、その細胞はもとには戻りません。発症したら1分でも1秒でも早く受診してください。
Q. こういう症状が出たらすぐに受診した方がいいという、脳梗塞・脳出血・くも膜下出血の特徴的な症状を教えていただけますか
くも膜下出血はおもに激しい頭痛が特徴、脳出血や脳梗塞は脳のダメージの場所によって症状の出かたが違ってきますが、一般的には体の半身に麻痺やしびれが出るケースが多いです。
くも膜下出血 | ある時突然おこる頭痛、それまで経験したことのないような激しい頭痛、吐き気を伴う頭痛、バットで殴られたような頭の痛み、床を転げ回るような激しい頭痛 |
脳梗塞・脳出血 | 右側だけ左側だけなど半身にでる麻痺やしびれ、手と口・手と足などの麻痺やしびれ、 言葉がうまくだせない、ろれつが回らない、性格が変わるなど。それらの症状が急速 に悪化する場合は特に注意が必要 |
軽度の脳梗塞などであれば当院でも十分に急性期の治療ができます。受診された方の検査結果を見て症状を聞いて、「脳卒中ではありませんよ」と患者様を安心させるのも私たちの仕事です。MRIやCTスキャンなどは聴診器のようなものと捉えていただいて、もし何か心配なことがあれば遠慮せずすぐに受診してください。
脳卒中の治療について
Q. 脳卒中の急性期にはどのような治療が行われるのですか
脳卒中の急性期治療は早ければ早いほど、脳へのダメージが少なくてすみます。具体的には発症から3〜4.5時間以内に血栓溶解療法や血管内治療を施すと助かる確率が30%あがるとされています。破壊されてしまった細胞はもとには戻らないといいましたが、血栓溶解療法や血管内治療というのはそれが戻る可能性がある治療です。疾患によってすぐに手術が必要なのか、点滴などの内科的治療でまずは症状を落ち着かせるのかなど、迅速な診断と見極めが勝負なので、医療チームや病院同士の連携がとても大切になってくるのです。
Q. まずは急性期の症状を抑える治療をして、その後回復期のリハビリに取り組むということですね
そうです。脳卒中は発症してから2〜3ヶ月の間に大幅な回復をみせます。ですから、その間しっかりと集中してリハビリをやるというのが回復期リハビリの目的です。脳がダメージを受けるとその周辺もダメージを受けます。脳梗塞を例にとると完全に死んでしまった細胞の周りにもダメージを受けた細胞があるわけです。それがまた復活してくるまでに少し時間があるので、その間効果的なリハビリをして、そこが復活してくれば体に動きが出てきます。
Q. 脳卒中を発症してしまうと後遺症が残ることの方が多いですか?
残念ながらそうなります。普通の生活ができるほどに回復された方でもやはり手が痺れるとか、うまく使えない、頭が重いなどなんらかの後遺症は残ります。失った機能をもとに戻すことは難しいので、残った機能をいかに生かしていくかが大切。回復期リハビリが終わったら治療が終わるというわけではないので、当院でもリハビリスタッフと相談しながら、回復の見極めをしっかりと行っていきます。そうすることで退院後の適切なリハビリなどに繋げ、患者様が生活をうまく続けていけるよう支援をしていきます。
脳卒中を防ぐには
Q. 後遺症とずっと付き合っていかないといけない脳卒中というのは恐ろしい病気ですね
とにかくなってからでは遅いので、「脳の神経は一度壊れたら終わりだ」という認識を強く持っていただきたいです。 かつては長寿県といわれた沖縄県ですが、発症者数は増加傾向にあるように思います。中でも我々がもっとも懸念しているのは高齢者と若年層の脳卒中。80代・90代の親が倒れると、60代・70代のお子さんがさまざまな負担をかかえることになります。若い世代が倒れると、家族が経済的な不安に直面することにもなります。後遺症で体の自由が効かないことでご本人が落ち込んだり、イライラしたりする脳卒中後の鬱というのもあります。そういった状況を避けるためにも、普段の生活の中で健康管理をしっかりと行っていただくことが大切です。
Q. 脳卒中を防ぐために日頃から気をつけておいた方がいいことはなんですか?
脳卒中を引き起こす最大の要因は生活習慣病です。生活習慣病をしっかりと管理することがまずは第一。以下に思い当たる項目があれば、意識してすぐに行動、改善することをおすすめします。わかってはいるけどなかなか行動に移せないという方は、年に1度は脳ドックを受けて医師の指導を仰ぐことをおすすめします。
- 肥満ぎみだ
- ふだんあまり歩いたり運動したりしない
- ふだんの食生活で脂分や塩分の多いものを好んで食べる
- 過度の飲酒・喫煙が習慣化している
- 40代以上である
- 定期検診を受けていない
- 定期検診で血圧や血糖値・尿酸値などに異常がみつかったが放置している
- 糖尿病、高脂血症、高血圧、高尿酸血症、アルコール性肝疾患などを治療していない
脳ドックのすすめ -早期発見・早期治療や予防のために-
Q. 嶺井第一病院では脳ドックに力を入れていますが、どういった診断機器をそろえていますか
「できるだけ最新の診断機器を使って、より良い画像を提供する」という初代・嶺井進院長のポリシーをしっかりと受け継ぎ、当院では高性能なMRIやCTスキャナーを数種類揃えています。経験を積んだ優秀な検査技師と一緒に画像を確認しますので、小さな動脈瘤なども発見しやすいといえるでしょう。
Q. 最新の機器での脳ドックとなると、やはり気になるのが費用面ですが・・・
当院では早期発見・早期治療や予防医療のために、脳ドックの重要性をより多くの方に知っていただきたいと考えています。ですから、できるだけみなさまの経済的負担が少なくてすむよう、1回の費用を2万円代におさえました。企業や自治体などの補助があれば実質的な負担がほとんどないような価格設定にしていますので、ぜひ気軽に脳ドックを受けていただきたいです。
個人的な経験ですが、私が中3の時、私の父は49歳の若さで脳出血で倒れました。高血圧を放置していたのが原因でした。父は英語の教師をしていたのですが、右半身の麻痺と失語症が残り復職もままなりませんでした。こうなってしまうと本人も大変ですし、家族の経済的、精神的、体力的不安も大きいのを私は知っています。沖縄には脳卒中に対する認識が甘い方が多いように感じます。生活習慣病をしっかり管理することで、将来の脳卒中は防げます。
Q. 危機的状況に陥らないためにも早期発見・早期治療や予防が大切だということですね
まさにそうです。さらに、患者様自身に「生活習慣病をしっかりと管理していく」という意識を持っていただくこと。たとえば脳ドックで隠れ脳梗塞がみつかったとしましょう。動脈硬化は加齢現象のひとつでもあるのですが、血管が痛んでいるということは、それを促進させる生活習慣が裏に隠れているはずなんです。単純に脳ドックでこういう結果が出たから治療しましょうというのではなく、「食生活を変えましょう」、「飲酒やたばこを控えましょう」など、できるだけ患者様とコミュニケーションを取るように心がけています。脳ドックの際に面談希望があれば遠慮なくおっしゃってください。ある意味、我々の仕事をなくすのが、我々の仕事だと思っていますので。